仙丈岳

仙丈岳山行レポート

　はじめましてこんにちは。

　私は大阪府堺市に住む３０代の視覚障害者です。ハイキングのサークルに所属し月に何度かはサポートして頂き自然とのふれあいを楽しんでおります。

今回の南ア・仙丈岳は初めてのテント泊で体力的にも不安を持ちながらあたたかい山の仲間にささえられ登頂することが出来ました。その嬉しさのあまりサポートの方々に説明して頂き体で触れて感じて聞いたこと、想像したことなどまとめてみました。

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【と　き】1997年07月20日（日）
【山　名】仙丈岳　3,032m
【山　域】南アルプス
【天　候】晴天
【同行者】８名（平均年齢５５歳　視覚障害者３名）
【ルート】北沢峠→大滝の頭→小仙丈岳→仙丈岳→藪沢新道→大滝の頭→北沢峠（徒歩所要時間約９時間）

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★７月１８日（金）　▲準備編▲

この日の山行に備えて買ったリュックにアレやコレやと力任せに詰め込んでいざ家を出発だ！。あ～それにしても重たいなあ～

白い杖を手にパンパンではちきれそうなリュックを背中に電車を乗り継ぎ待ち合わせ場所へと歩を進める。いつもとは何か違う視線をあびながら…

夜１１時過ぎＪＲ茨木駅で仲間と待ち合わせ、１１時３０分ワゴンに乗り込み一路名神高速～中央道へ。　車中、真夜中にもかかわらずウキウキドキドキ会話の花が咲く。
PHOTO　戸台口バス乗り場

★７月１９日（土）

午前７時過ぎ戸台口に到着。

ここから北沢峠までは一般車両通行制限のために村営バスに乗り換える。８時２５分バス出発、道路が狭いのだろうか?マイクロバスだ。運転手がいろいろアナウンスしながら運行してくれるのだがこれが何とも言えずいい調子で気持ちいい。しらかば並木や渓谷、時に断崖絶壁の直側で突然停車し私たちを喜ばしてくれた。どこ行っても事務的な扱いが多い昨今だけに心のこもった対応が嬉しかった。

約６０分で北沢峠（約２千メートル）に到着、心地よい涼しさを越して寒いぐらいだ。うまい空気、澄み切った空、自然が息する木々の匂い・・・・、ついに南アルプスに来たんだと実感する。歩いて１０分ほどの長衛小屋近くのテント場に向かう。ここで東京から参加されたＦＩさんと合流した。彼は既に何度となくこのルートを経験された大阪出身の山屋さんで大変お世話になった。m(__)m　思えば昨年富士山に登って以来一年ぶりの再会である。

テントを張り荷物を整理しさっそく再会と明日の無事を願って乾杯だ!!　(^0^)/
明日の登山に備えて午後６時過ぎに寝るが何せ慣れないシュラフに入っての就寝でなかなか眠付けない。

★７月２０日（日）　▲山行編▲

午前２時３０分、起床。
なかなか寝付かれなかったものの前日からの寝不足で疲れていたから熟睡出来た。年に一度あるかないかの二日酔いもしてない（あせあせ）すがすがしい朝である。

午前４時、東の空が少しずつ明るくなるのが分かる。あっちこっちで何と言う野鳥か?楽しそうにさえずりはじめた。
PHOTO　北沢峠、仙丈岳の地図

午前５時００分、北沢峠バス停前いざ出発。
力うどんを腹いっぱ～い食べて元気モリモリ（エイエイオー！）晴天の中出発する。（気温７度）足を慣らす間もなく樹齢数百年を越えるシラビソ・コメツガなどの原生林を縫うようにひたすら登る。

朝露で木の根などに乗ると滑り易く気を使う。いかにも樹林帯らしく、比較的足下も柔らかく薄暗く寒さを覚えるほどひんやりする。しばらくトレースし３０分もせずして、さっきまでの震えるほどの寒さがうそのように汗ばんできてＴシャツ１枚になり気合いを入れ直した。展望のきかない急斜面をひたすら高度をかせぎ歩く歩く・・・・、登る登る・・・・

２時間ぐらい歩いて大滝の頭（約２千５百㍍）に到着した。南側の展望がよくアルプスの山々が見えた。ここに５合目との道標があるとのこと。５号目と言うことは「もう半分歩いたのかなあ～??」と、つぶやくとどうもとんでもない甘い単純な私の発想であった。（涙）

一瞬魔のさした心のふんどしを締めなおして再び歩く。この辺りより少しずつ周りの圧迫感もなくなりだんだんハイマツ帯が多くなり森林限界なのだろうか? 視界が開けてきた様子…。

野鳥の声もだんだん透き通った感じでよくヒビク。直射日光もよく浴びるようになって今までとは風が違う。足下の段差も大きく岩場が多くなったことで周りに遮るものがなく広ぴろしたところであると体で感じる。不規則な段差が多く足場が分かりにくい最も私の苦手な道であった。

もう疲労と暑さで全身汗だく…　もう話するのすらつらい。登山道は多くの人で賑わっていた。白い杖を持ってサポーターの方のリュックに手を添えて歩く私たちの姿はよく目立ったに違いない。道行く人は必ずと言っていいほど様々な反応を示してくれる。「がんばって…」、「もう少しですよ…」とかとか。狭い道では優先的に通して頂いた。私はその声援に支えられ歯を食いしばって必死で歩いて歩いて歩いた。

左、小太郎山尾根の上の富士山、右、北岳

午前８時、小仙丈岳に到着。

小仙丈カールをだいた大らかな仙丈ヶ岳の美しい山陽が見えるとの説明にここまでの苦労がむくわれた気持ち。北岳方面に北岳と小太郎尾根の上から顔を出す富士山が仲むつまじく並んでいる様子を説明して頂き自分なりに想像を巡らす。山に登ってよかったここまで来てよかったとほっとする瞬間であった。

腰に付けたアマチュア無線から時を同じくして東京からこのアルプスの間ノ岳3,189m　の山頂にいるという友人がコールしてきた。私は大阪から彼は東京からまさかこんなところで無線とはいえ話出来るなんて何か感動であった。しばらく話をして再び山頂目指して出発だ。

小仙丈尾根から仙丈岳を望む

岩場を下り小仙丈尾根をたどる。ハイマツ帯から殺風景な岩れき尾根に変わると数ケ所の大きな岩盤を四つん這いになって下った。私が最も緊張した場所であったがサポートして下さった方や周りで見ておられた人々はもっと緊張した様子であった。待望の山頂を目の前にするとカール底に輝く残雪、その説明にその様子を想像するだけだが何かカールを渡ってのそよ風がいっぺんに涼しく感じる。

１０時２２分、登頂！！　＼(^o^)／

山頂は女性やほほえましいファミリーで賑わっている。四方八方展望よくアルプスの山々がくっきり見渡せ蒼天に力強くぽっかり浮く夏雲と富士山や北岳・甲斐駒ヶ岳が印象的である。

休憩もそこそこに説明していただいた風景を思い浮かべながら山頂を後に稜線から離れるように藪沢カールの仙丈避難小屋目指し下った。

甲斐駒ヶ岳と荒々しい鋸岳の山稜を遠くに眺めながらしばらくは急なガレ場で疲れた足や膝にむちうって馬の背へと進んだ。ところどころに高山植物の原生するお花畑に足を止めた。キバナシャクナゲ・クロユリ・オヤマノエンドウ・シナノキンバイ・イワカガミ・ツガザクラ・シダケカンバ等観察出来た。中でもピンクの花を付けたイワカガミは印象的で神秘的な美しさを放って愛らしい。小さな草花がいかにも必至に生きている。息する鼓動が手に伝わるようだ。

私のような目の悪いものにとって山での楽しみの一つがこのような植物に接し自然と対話することでもある。

藪沢の音が近づく頃、あっという間もなくガスで視界が遮られてきた。シラビソやツガなどの原生林におおわれた深い谷間からひんやりした冷風が気持ちいい。

うっそうとした雰囲気、素朴で手垢が着いてない神秘的な魅力、改めて「ここは山深いところだなぁ～」、と実感する。幾つかの沢を経て大滝の頭へとトラバースする。所によっては谷間に残雪があった。長いこと手を入れておけないほど冷たい沢の水を飲んだがこの世にこんなにうまいものがあったのかと思うほど五臓六腑にしみる。

午前１１時５０分、大滝の頭に到着。
突然何事が起こったかと思うほどキャッキャァと喜びながら近寄ってくるおばちゃんがいた。山頂ですれ違ってお互い反対のルートを進み再びここで再会したのだ。…とは言え勿論山頂で会ったことなんて私には全く分からないことなのですが…。

おばちゃんパワーに元気づけられ休憩もそこそこに北沢峠のバス乗り場へと急ぐ。気は急げどもう体が言うことを聞いてくれない。（あせあせ）膝がガタガタでふんばりが効かないままにも急ぐ急ぐ・・・。

急ぐには急ぐなりの理由があった。最終のバスに乗り遅れては大変なこともあったが何よりもそのバスに乗る前に東京から参加のリーダーと別れの儀式があるのだ。儀式? そう早く冷たいビールがこいしかった。（あせあせ）ここまで来るとただ冷たいビールだけが生きる? 歩く目的なのだ。（笑）

北沢峠のバス待ちの列

午後１時５０分、北沢峠バス停に到着。

朝５時にはシーーンと静まりかえっていたこの場所も下山しバスを待つ人々で賑わっていた。ほぼ９時間近く歩き全身疲労でグタグタ、膝がケラケラ笑うぐらいなのにしんどさよりもはるかに山頂まで登ってきた満足感でいっぱいであった。さっそく無事登頂を祝して乾杯！

冷たいビールのおいしいこと・・・・　だから山は止められないのである。

白い杖を持った男前の私はどこでもよく目立つ。（にこにこ）バスを待つ人々が次々と「よ～くまあ…　登れたね～」とかとか・・・・、言ってくれる。私はニコニコして「ありがとうございます」と答えるのだが、心のどこかで「アンタかて登ったんちゃうの??」と問いかけるのであった。（苦笑）

午後３時３０分、戸台口に戻る。
バスで約１時間余りで一気に標高差１２００mを下ると信じられないような暑さであった。ここは下界の現実社会……。　そして、午後９時４０分大阪に到着した。

で、今は無情にも・・・・　ジ、じ、地獄??の家である。（あせあせ）
また、このような山行をしたいと夢は次から次とふくらみ仕事・日常生活にも力が入るんですね～

★　最後に・・・・・

このように楽しい山行を無事終えれたこと、ひとえに同行していただいた方々に心より感謝です。
私たちは単独で山行出来ません。それだけに山で視覚障害者が歩いていることは確かに特種な珍しい光景に写ることでしょう。
しかし、いつか普通に私たちも行きたい時に山に行って山でも違和感のない形で心のファインダーにおさまりたいものです。

●　月に一度、私たちサークルではハイキングなど行っております。ご興味の持たれた方、お手伝いして頂ける方などおられましたら是非御連絡下さい。

Ｆrom ★どぼたん★ /ＳAKAI-ＣITY,Ｏsaka.　　

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